RESEARCH DIGEST
AI導入したのに仕事が増えた?
MIT研究でわかった「見えないAI業務」の正体
MIT Sloanの2年間の実地調査「Hidden Work」を読み解く
こんにちは、ろんです。「AIを導入すれば楽になる」というイメージがありますが、実際には導入の初期段階で担当者の仕事がむしろ増えることがあります。MIT Sloan School of Managementが2026年9月9日に公開した2年間の実地調査は、この"見えない負担"がAI導入の成否を分ける決定的な要因だと指摘しています。AI導入支援に関わる立場として、かなり実感に合う内容でした。
- この研究が何を調べたか
- 「hidden work(見えない仕事)」とは何か
- 認識・支援がないと社員は"静かに"離脱する
- 141の解決策を生んだ組織と、3つで止まった組織の違い
- 個人・小規模チームで気をつけたいこと
1. この研究が何を調べたか
この研究は、ある大学医療センターと、ある法律事務所の2つの組織を対象に、2年間にわたる実地調査を行ったものです。同じようにAI導入へ投資を始めた2つの組織が、なぜ大きく異なる結果に至ったのかを、現場の働き方まで踏み込んで分析しています。
出典:MIT Sloan School of Management(2026年9月9日)
2. 「hidden work(見えない仕事)」とは何か
研究チームが注目したのは、AI導入の成否を分けたのが、ツールの性能や予算そのものではなく、社員が本来の業務に加えて行っていた"見えない仕事"だったという点です。具体的には、次のような作業が該当します。
- 試行錯誤による検証:AIが「何ができて、何ができないか」を実際に試して見極める作業
- 出力の確認・調整:AIが出した結果を確認し、複数部署をまたいで擦り合わせる作業
- 継続的な適応:AIモデルが更新されるたびに、既存の仕組みを調整し直す作業
これらは通常の業務評価には現れない、いわば"AI導入のための下働き"です。
3. 認識・支援がないと社員は"静かに"離脱する
会社側がこの追加負担を認識・支援しないと、社員は表立って反対するのではなく、徐々にAI導入活動そのものから距離を置いていくことが分かりました。研究対象となった法律事務所では、ドメインの専門家の80%以上が最終的に離脱していたと報告されています。
出典:同研究(2026年9月)
4. 141の解決策を生んだ組織と、3つで止まった組織の違い

| 大学医療センター | 法律事務所 | |
|---|---|---|
| 組織全体のAI解決策 | 141件(さらに開発継続中) | 3件で停滞 |
| 初期投資 | 同程度 | 同程度 |
| 専門家の離脱率 | 低い(見えない仕事を組織的に支援) | 80%超(見えない仕事が個人任せ) |
両者の分かれ道は、「見えない仕事」を組織としてどう扱ったかにありました。試行錯誤の時間を業務として認め、部署間調整を制度化し、モデル更新への対応も個人任せにしなかった組織は、AI活用が雪だるま式に広がっています。一方、それらをすべて現場の"善意の追加業務"に依存した組織では、担当者が疲弊し、活動そのものが縮小していきました。
5. 個人・小規模チームで気をつけたいこと
クライアントへAI導入を提案する際、「導入すれば工数削減」という説明だけでは不十分です。初期の試行錯誤・出力確認・調整の時間をどう確保し、誰が担うかまで含めて設計しないと、担当者が疲弊し、せっかくの導入が尻すぼみになりかねません。個人で副業としてAI活用を進める場合も同じで、「AIに任せた分、確認・調整の時間が別に必要になる」ことを最初から見積もっておくと、後で燃え尽きるリスクを減らせます。
現在進めているAI活用を1つ選び、「試行錯誤にかけた時間」「出力確認・調整にかけた時間」を1週間分だけメモしてみてください。想像以上に時間がかかっていることに気づくはずです。
まとめ
この研究が示すのは、AI導入の成否は、ツールの性能だけでなく、その裏で発生する"見えない仕事"を組織がどう扱うかで決まるということです。AI導入支援や副業でAIを活用する立場としても、「AIを入れれば楽になる」という単純な売り文句より、初期の負担まで見据えた現実的な提案・進め方ができるかどうかが、長続きする導入の分かれ道になりそうです。
本記事の出典(2026年9月時点で確認)
- MIT Sloan School of Management「Why some organizations turn AI experiments into business value while others quietly fail」2026年9月9日
数値は同研究発表時点のものです。詳細な調査手法・対象組織の背景については原文をご確認ください。